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Logicool MX Ergo S レビュー

公開日 最終更新

この記事の結論

MX Ergo S

★ 4.5/ 5

こんな人に: すでに手首や前腕に違和感がある人。デスクが狭い人

良い点

  • 本体が動かないので、手首から先を移動させる動作そのものがなくなる
  • 20度の傾斜プレートを付けると前腕の回内が浅くなり、肘の外側がラクになる
  • 静音スイッチでクリック音が小さい

惜しい点

  • 親指ボールでの細かいドラッグ(矩形選択やCAD的な操作)には慣れがいる
  • ボール受けの清掃を怠るとカーソルが引っかかる
  • 重く据え置き前提なので持ち運びには向かない

詳しく読むには、このまま下へスクロールしてください。

結論から書きます。MX Ergo S は「手首から先を動かす」という動作そのものをなくす道具です。 すでに手首や前腕に違和感がある人、デスクが狭い人には効きます。

逆に、細かいドラッグ操作が多い人と、親指の付け根に不安がある人には勧めません。 手首の負担を親指に付け替える構造だからです。

効くのは「移動をなくす」ことと「ねじれを浅くする」ことの2つ

トラックボール全般の利点は、本体を動かさないので腕の移動量がゼロになることです。マウスパッド相当のスペースも要らなくなります。

MX Ergo S が他のトラックボールと違うのは、ここにもう1軸あることです。付属の傾斜プレートで本体を20度傾けられます。

これが効く理由は姿勢にあります。手のひらを完全に下に向けてマウスを握る姿勢は、前腕の2本の骨が交差した状態です。これを1日中維持すると前腕の外側から肘にかけて張りが出ます。20度傾けると交差する角度が浅くなり、この負担が減ります。

つまり 「移動量」と「ねじれ」の両方に同時に効く。トラックボールでこの両取りができる製品は多くありません。

痛む場所から対策を逆算する考え方はマウスで手首が痛いときの対策に整理しました。肘の外側が痛むならねじれ、手首や肩がつらいなら移動量が原因です。

ねじれているのは手首ではなく前腕

「傾斜で手首がラクになる」という言い方は、実は正確ではありません。手のひらを下に向ける動作は回内(かいない)と呼ばれ、手首の関節ではなく前腕そのものが担っています。 前腕には橈骨と尺骨という2本の骨が並んでいて、回内ではこの2本が交差します。手首から先を動かさなくても手のひらを返せるのは、前腕の中で骨が入れ替わっているからです。

だから負担も手首には出ません。回内を保つ筋肉は肘のすぐ下から始まっているため、張りとして自覚されるのは前腕の外側と肘の外側になります。手首は何ともないのに肘の外側だけが重い、という状態はここから来ます。リストレストを足しても改善しないのは、痛みの発生源がそもそも別の場所にあるからです。

傾斜プレートが効くのはこの一点です。机に手を伏せた状態の回内はおおむね90度で、20度傾ければその分だけ交差が浅くなります。 逆に言えば、解消するのではなく90度を70度に緩めるだけです。ねじれをほぼゼロにしたいなら、後述する縦型マウスのほうが徹底しています。

MX Ergo S の評価

5項目での評価

手首のラクさ
4.8/5
操作精度
4/5
カスタマイズ性
4.5/5
静音性
4.8/5
携帯性
2.5/5

良かった点と、惜しいと感じた点は次のとおりです。

ここが良い

  • 本体が動かないので、手首から先を移動させる動作そのものがなくなる
  • 20度の傾斜プレートを付けると前腕の回内が浅くなり、肘の外側がラクになる
  • 静音スイッチでクリック音が小さい
  • 設置面積が固定なので、書類が散らかった狭いデスクでも困らない

ここは惜しい

  • 親指ボールでの細かいドラッグ(矩形選択やCAD的な操作)には慣れがいる
  • ボール受けの清掃を怠るとカーソルが引っかかる
  • 重く据え置き前提なので持ち運びには向かない

ここまでで判断がついた人向けに、先に販売ページへのリンクを置いておきます。欠点も見てから決めたい人はこの下を読み進めてください。

傾斜20度の使い方

いきなり傾斜を付けないでください。傾けるとボールの位置と角度が変わるので、操作の難易度が上がります。

順序としては、まず0度でトラックボール自体の操作に慣れる。親指でカーソルを狙った場所に止められるようになってから、20度に切り替える。この順にすると移行がスムーズです。

傾斜プレートはマグネットで着脱できるので、合わなければすぐ戻せます。両方試して、肘の外側の張りが軽いほうを選んでください。

M575SPとの差は、角度だけではない

同じロジクールの親指トラックボールにはERGO M575SPがあり、実売価格ははっきり下です。「傾斜が付くかどうかだけの差」と考えて比較すると、判断を誤ります。 差は3つあります。

傾斜角を変えられるか

M575SPの角度は固定で、傾斜プレートに相当するものはありません。前項の回内の話に直結する部分なので、肘の外側に張りが出ている人にとってはここが価格差の主な根拠になります。裏を返せば、まだ痛みが出ていない人にはこの差を実感する機会がありません。

本体の重さによる据わり

MX Ergo S は金属プレートを含む構成で、M575SPよりはっきり重くなります。 トラックボールでは重さが欠点になりにくく、むしろボールを勢いよく弾いても本体が動かないという利点として働きます。軽い本体は反動で机の上をわずかに滑ることがあり、傾けている状態ではその動きがカーソルのズレとして返ってきます。据え置き前提の道具なので、ここは重いほうが素直に有利です。

精密モードボタンの有無

MX Ergo S にはセンサーの感度を一時的に落とすボタンがあります。押している間だけカーソルがゆっくり動くもので、M575SPにはこの機構がありません。親指トラックボールの最大の弱点である細かいドラッグを、部分的に埋めるための機能です。

ただし過大評価はしないでください。感度を落とせば1ピクセル単位の指定はやりやすくなりますが、そのぶん同じ距離を動かすのに親指を何度も回すことになります。通常のマウスと同じ速さで精密操作ができるようになる機能ではありません。

価格差はおおむね2倍以上あります。 1つ目が刺さるなら差額は正当化できますが、トラックボール自体が初めてで、痛みもまだ出ていないなら、まずM575SPで形状が体に合うかを確かめるほうが損は小さくなります。

静音クリックが効く場面

クリックが静音スイッチになっています。これは在宅勤務では実用的な利点です。

オンライン会議中にメモを取ったり資料をクリックしたりしても、マイクに乗りにくくなります。ただし静音マウス全般に言えることですが、消えているのはクリック音だけです。ホイールのラチェット音は残ります。

もっとも、トラックボールは本体を動かさないので滑走音がそもそも発生しません。 3つある音源のうち2つが構造的に消えるという意味では、静音性では有利な形状です。音源の切り分け方は静音マウスを3軸で順位付けした記事に書きました。

買ってから残る課題

細かいドラッグは慣れても遅い

これが最大の弱点です。矩形選択、CAD的な精密操作、画像編集での1ピクセル単位の指定。こうした作業は慣れても通常のマウスより時間がかかります。

親指は器用な指ですが、可動域が限られています。大きく動かすのは得意でも、微小な動きを連続させるのは苦手です。

作業内容がこちらに寄っているなら、無理に移行する必要はありません。多ボタンマウスで効率を上げるほうが早い場合もあります。実際の使い勝手はLogicool MX Master 3Sのレビューにまとめました。

手入れが要る

ボールを支えている支持球に手の脂が溜まると、カーソルが引っかかる感触になります。

2〜4週間に一度、ボールを外して支持球と受け皿を拭いてください。作業は1分ほどです。これを知らずに「壊れた」と判断する人がいますが、トラックボールは手入れ前提の道具です。

逆に言えば、マウスソールのような消耗要素がないぶん長持ちします。

持ち運べない

重く、据え置き前提の形状です。外出用は別に用意することになります。

ただしこれは設置面積が固定という利点の裏返しでもあります。書類が散らかったデスクでもマウスの可動域を確保する必要がないので、狭い机では有利に働きます。ノートPCと資料を同居させているような環境では、マウスを動かすための余白を空けておかなくていいこと自体が効いてきます。

高さ方向の占有は増える

面積は固定ですが、傾斜プレートを付けると本体の背が高くなります。 平面では省スペースでも、高さ方向では逆に場所を取ります。

引っかかりやすいのはスライド式のキーボードトレイと、天板下の引き出しです。トレイに載る高さでも、押し込んだときに天板の裏へ当たれば使えません。「マウスなのだから収まるだろう」という前提が崩れるので、そうした収納を使っているならクリアランスを先に測ってください。

もう一点はキーボードとの段差です。傾けると手の甲の位置が上がるため、キーボード側の高さと揃わなくなることがあります。両手を行き来させる作業が多いなら、キーボードの高さとセットで考える必要が出てきます。

傾斜は0度と20度の2択で、中間がない

角度は無段階ではありません。プレートを付けるか付けないかの2択です。

これは実用上そこそこ大きな制約です。20度が強すぎると感じたとき、10度前後で妥協するという逃げ道がありません。0度に戻せば回内の負担はそのまま残るので、合わないときに中間を探すことができない構造になっています。

マグネットで着脱できるのは利点ですが、それは2つの状態を行き来できるという意味であって、体に合わせて詰められるという意味ではありません。

価格帯が「試してみる」水準ではない

トラックボールとしては明確に上の価格帯です。前述のとおりM575SPとはおおむね2倍以上の開きがあり、「合うか分からないが試してみたい」という動機で払う金額ではありません。

すでに痛みがあり、その原因が移動量とねじれにあると切り分けられているなら妥当な投資です。切り分けができていない段階なら、先に挙げた「痛む場所から逆算する」整理に戻って原因を絞ってから検討してください。

縦型マウスとどちらを選ぶか

ねじれを減らすという目的だけで見るなら、縦型マウスのほうが徹底しています。握手をする形に近い角度まで手を立てるので、回内はほぼゼロに近づきます。 20度で止まるMX Ergo S より、ねじれに対する効きは強い。

ただし縦型マウスは本体を動かすマウスのままです。腕の移動量は減らず、マウスパッド相当のスペースも要ります。同じ棚に並んでいても、効く相手が違う道具だと考えてください。

  • 肘や前腕の外側が張る → 原因はねじれ。縦型マウス、またはMX Ergo S の20度
  • 肩や首がつらい、机が狭い → 原因は移動量。トラックボール側
  • 両方に心当たりがある → 2つに同時に効くのはMX Ergo S のほう

移行コストにも差があります。縦型マウスは持ち方が変わるだけでカーソルの動かし方は今までと同じなので、初日から仕事に使えます。トラックボールは操作の仕方そのものが変わるため、普通に作業できるまで1〜2週間はかかります。納期が詰まっている時期に入れ替えるなら縦型マウスのほうが安全です。

一方で縦型マウスは形が大きく、可動域も必要なので、狭い机では扱いにくくなります。据え置きで机が狭いならトラックボール、机に余裕があってねじれだけを消したいなら縦型、という分け方ができます。

結局、誰が買うべきか

  • 手首や前腕に違和感があり、原因が移動量とねじれにある人 — この2つに同時に効く数少ない製品です
  • デスクが狭く、マウスの可動域を確保できない人 — 設置面積が固定なのは大きな利点です
  • 在宅勤務でオンライン会議が多い人 — 静音クリックと滑走音ゼロが効きます

逆に、細かいドラッグ操作が中心の人、親指の付け根に不安がある人、持ち運びたい人には勧めません。

よくある質問

傾斜プレートは付けたほうがいいですか?
前腕や肘の外側に張りを感じているなら付けてください。20度傾けると手のひらが完全に下を向かなくなり、前腕の2本の骨が交差する角度が浅くなります。これが回内の負担を減らします。ただし傾けるとボールの位置も変わるので、最初は操作しづらく感じます。数日は0度で慣れてから傾斜を付けるほうが移行がスムーズです。
普通のマウスから乗り換えて、どれくらいで慣れますか?
普通に作業できるまで1〜2週間、意識しなくなるまで1か月程度が目安です。持ち方自体は通常のマウスに近いので、トラックボールの中では移行が楽な部類です。ただし細かいドラッグは最後まで残る課題で、矩形選択のような操作は慣れても通常のマウスより時間がかかります。締め切り前の導入は避けてください。
親指が痛くなりませんか?
すでに親指の付け根に違和感がある人には勧めません。この製品は手首と前腕の負担を親指に付け替える構造だからです。手首がラクになる代わりに、親指の使用頻度は確実に増えます。親指側に不安があるなら、手のひら全体で大きなボールを回すタイプのトラックボールのほうが安全です。
ボールの手入れはどれくらいの頻度で必要ですか?
2〜4週間に一度が目安です。ボールを外して、支持球と受け皿を乾いた布で拭くだけで1分ほどで終わります。手の脂が溜まるとカーソルが引っかかる感触になり、これを故障と勘違いする人がいます。トラックボールは手入れ前提の道具だと理解しておいてください。逆に手入れさえすれば、マウスソールのような消耗要素がないぶん長持ちします。
MX Master 3S とどちらを選ぶべきですか?
手首や前腕に違和感があるなら MX Ergo S、作業効率を最優先するなら MX Master 3S です。MX Master 3S は多ボタンと高速スクロールで操作を詰められますが、手を動かす点は通常のマウスと変わりません。MX Ergo S は移動そのものをなくす代わりに、細かい操作の速度は落ちます。痛みが動機か、効率が動機かで分かれます。
MX Ergo S(親指トラックボール)の全体像

ロジクール

MX Ergo S

総合評価4.5/5

評価

手首のラクさ
4.8/5
操作精度
4/5
カスタマイズ性
4.5/5
静音性
4.8/5
携帯性
2.5/5

こんな人にすでに手首や前腕に違和感がある人。デスクが狭い人

価格・在庫は変動します。最新の価格はリンク先の販売ページでご確認ください。

この記事を書いた人

midori

PC周辺機器の仕様と売れ筋データを読み比べて、用途別の選び方に落とし込んでいます。実機を入手した製品は、記事にその旨を明記しています。

  • メーカー公表値と売れ筋データを突き合わせて比較
  • 欠点を長所と同じ密度で書く

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