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Logicool ERGO M575SP レビュー

公開日 最終更新

この記事の結論

ERGO M575SP

★ 4.4/ 5

こんな人に: トラックボールを初めて試す人、机が狭い人

良い点

  • 本体を動かさないので、手首から先の移動がなくなり机のスペースも要らない
  • 静音クリックが追加され、会議中でも打鍵音ならぬクリック音を気にせず使える
  • 乾電池式で充電を意識する必要がない

惜しい点

  • 傾斜角を変えられないため、前腕のねじれ(回内)は軽減されない
  • チルトホイールがなく、横スクロールができない
  • DPI変更ボタンがなく、精密操作と大きな移動の切り替えができない

詳しく読むには、このまま下へスクロールしてください。

結論から書きます。トラックボールを初めて買うなら、これで十分です。

上位機の MX ERGO S との差は3つだけで、トラックボールとしての操作感そのものはほぼ同じ。それでいて価格は2.5倍ほど違います。

売れ筋ランキングで2位に居続けているのは、多くの人の要求がこの3つを必要としないからです。

そのうえで、この記事はもう一本の軸を通します。トラックボールの寿命を決めるのは、ボールを外して掃除できるかどうかです。トラックボールが「渋くなった」「カーソルが引っかかる」と言われて手放される原因の大半は故障ではなく汚れで、それを1分で解消できる構造かどうかが数年後の満足度を分けます。M575SPはここが素直で、それが「最初の1台」に向く理由の半分を占めています。

上位機との差は3つだけ

新モデルで静音クリックが追加され、上位機との機能差がさらに縮まりました。残る違いはこれだけです。

M575SP MX ERGO S
傾斜角の調整 なし あり
チルトホイール(横スクロール) なし あり
DPI変更ボタン なし あり
トラックボールの操作感 ほぼ同じ ほぼ同じ
静音クリック あり あり
電源 乾電池 充電式

「傾斜」「横スクロール」「DPI切替」の3つが要るか。判断はこれだけです。

いちばん重要なのは傾斜角

3つのうち、実用上いちばん差が出るのがこれです。

トラックボールは本体を動かさないので手首と肩の移動量がゼロになります。ここはM575SPでも同じです。

しかし前腕のねじれは別問題です。手のひらを下に向けてマウスを握る姿勢は、前腕の2本の骨が交差した状態で、これを1日中維持すると肘の外側から前腕にかけて張りが出ます。上位機は本体を20度傾けられるので、この角度が浅くなります。M575SPは傾斜が固定なので、ねじれは軽減されません。

言い換えると、M575SPが減らすのは「移動」であって「ねじれ」ではありません。この2つは同じ「手首がつらい」という言葉で語られますが、原因が別なので効く道具も別です。ねじれ側だけが問題なら、トラックボールにする必要すらなく、手を立てて握る縦型マウスのほうが素直な解になることもあります。傾斜が効く仕組みと実際の使い勝手はMX Ergo S のレビューに書いています。

チルトホイールとDPI変更ボタンの2つは、傾斜ほど深刻な差にはなりません。横スクロールはホイールを押しながら動かす代替手段やソフト側の設定である程度まかなえますし、DPIも Logi Options+ で1つの値に決め打ちしてしまえば、日常の作業で切り替えを必要とする場面はそれほど多くありません。横に長い表を常時扱う、あるいは細かい選択と大きな移動を1分ごとに往復するという具体的な作業がある人だけが、この2つを理由に上位機を選ぶ意味を持ちます。

ボールを外して掃除できるかが、寿命を決める

ここからがこの記事の本題です。

トラックボールを買った人が数か月後に「動きが渋い」「カーソルが飛ぶ」と言い出す現象は、機種を問わず起こります。そしてそのかなりの部分は、故障ではなく手入れの問題です。構造を知っていれば当たり前の話なのですが、通常のマウスから移ってきた人はこの前提を持っていません。

点で支えているから、汚れが効く

トラックボールのボールは、受け皿の中で3点の支持球に点で接触して回っています。面で受けているのではなく、小さな球が3つ、ボールを下から支えているだけです。摩擦をここまで小さくしているからこそ、指1本で慣性が続くほど軽く転がります。

裏を返すと、この3点は汚れに対して極端に弱いということです。接触面積が小さいぶん、そこに挟まった皮脂や埃の影響がそのまま転がりに出ます。手のひらと指は一日中ボールに触れているので皮脂は必ず付きますし、机の上の埃も受け皿に落ちます。それが支持球のまわりに固まると、転がりが渋くなり、動かし始めの一瞬だけ引っかかる感触が出ます。

通常のマウスなら、これに相当する劣化はソールの摩耗として現れます。テフロンのソールは擦り減りますし、マウスパッドの表面も潰れます。どちらも消耗品で、拭いても元には戻りません。一方トラックボールは机と擦れないので、この消耗そのものが存在しません。代わりに「汚れる」という、拭けば戻る劣化が来るという交換になっています。買い替えを迫られる劣化ではない、という点が重要です。

M575SPは下の穴から押し出せる

そこで問題になるのが、ボールを外すのがどれだけ面倒かです。

M575SPは本体底面にボールの押し出し穴があり、指で下から押すだけでボールが浮きます。工具は要りません。外したら支持球3点と受け皿を乾いた布か綿棒で拭き、ボール自体の脂を落として戻す。それで終わりです。頻度は2〜4週間に一度で足ります。

拭くときは基本的に乾拭きで足ります。アルコールを常用するとボール表面の質感が変わる可能性が指摘されており、汚れが落ちないときだけ薄めた中性洗剤を含ませた布で拭き、水気を残さないほうが無難です。

支持球そのものは長期的には摩耗します。ただしこれは部品として交換できる範囲の話で、社外品のセラミック製・人工ルビー製の支持球が流通しています。手入れを前提にするなら、トラックボールは消耗要素の少ない部類の入力機器です。操作方式ごとの構造の違いはトラックボールを操作方式で選ぶ記事に整理しています。

通常のマウスから移ると、負荷は消えずに移動する

移行を検討している人がいちばん誤解しやすいのがここです。

通常のマウスは、カーソルを運ぶために腕そのものを動かします。肩を起点に肘と手首が連動し、机の上を数センチから十数センチ、一日に何百回も往復する。肩の張りや手首の疲れは、この反復の総量から来ています。

トラックボールに替えると、本体が固定されるのでこの移動が丸ごと消えます。肩と肘の反復はゼロになります。 机のスペースも要らなくなるので、狭い机では効果が二重に効きます。

ただし、カーソルを動かすという仕事自体は消えていません。誰かがそれを担います。M575SPのような親指操作型では、それが親指です。

楽になる場所と、きつくなる場所が入れ替わる

つまり起きているのは負荷の消失ではなく、大きい関節から小さい関節への付け替えです。肩・肘・手首という大きな関節の反復が消える代わりに、親指の付け根の一点に操作が集中します。総量としては減るはずですが、集中先が細い関節なので、そこに既往がある人には逆効果になり得ます。

すでに親指の付け根に違和感や痛みがある人には、親指操作型は勧められません。 この場合は人差し指と中指で大きなボールを回すタイプのほうが、手のひら全体に荷重が散るぶん現実的です。「手首がつらいからトラックボール」という短絡が、痛む場所を移すだけに終わることがあります。

最初の数日は確実に遅くなる

もう一つ、移行に伴うコストがあります。普通に作業できるまで1〜2週間、意識しなくなるまで1か月程度が目安です。親指操作型は持ち方が通常のマウスに近いので、トラックボールの中では移行が最も楽な部類ですが、それでも最初の数日は確実に作業速度が落ちます。締め切り前の導入は避けてください。

慣れたあとも、細かいドラッグ操作は通常のマウスより時間がかかる傾向があります。ボールは慣性で転がるため、「止める」制御を指先の摩擦だけで行う必要があるからです。画像の選択範囲や図面の微調整のように1ピクセル単位を詰める作業では、この差が残ります。

だからこそ、いま使っているマウスをすぐ手放さないことを勧めます。トラックボールは机を占有しないので、普通のマウスを横に置いたままの併用が成立します。静音の普通のマウスを併用先に据えるならM750のレビューが比較の参考になります。

ERGO M575SP の評価

5項目での評価

手首のラクさ
4.5/5
操作精度
4/5
カスタマイズ性
3.4/5
静音性
4.6/5
コスパ
4.9/5

ここが良い

  • 本体を動かさないので、手首から先の移動がなくなり机のスペースも要らない
  • 静音クリックが追加され、会議中でも打鍵音ならぬクリック音を気にせず使える
  • 乾電池式で充電を意識する必要がない
  • トラックボールの操作感そのものは上位機とほぼ同じ

ここは惜しい

  • 傾斜角を変えられないため、前腕のねじれ(回内)は軽減されない
  • チルトホイールがなく、横スクロールができない
  • DPI変更ボタンがなく、精密操作と大きな移動の切り替えができない
  • 親指を酷使するので、親指側に不安がある人には向かない

静音クリックが載ったのが大きい

従来モデル比で約80%のノイズカットとされています。オンライン会議中にクリックしても気にならないレベルです。

ここで効いてくるのが、トラックボールは構造的に音源が1つ少ないという点です。

マウスの音源は3つあります。クリック音、ホイールのラチェット音、そして机を擦る滑走音。トラックボールは本体を動かさないので滑走音がそもそも発生しません。 そこにクリックの静音化が加わったので、残るのはホイール音だけになります。

在宅勤務で音を気にする人には、この構造的な優位は効きます。音源の切り分け方は静音マウスを3軸で順位付けした記事にまとめました。

乾電池式は弱点ではない

上位機は充電式ですが、M575SPは乾電池式です。「充電式のほうが上位」と思われがちですが、この用途では必ずしもそうではありません。

乾電池式は充電を意識する機会がほぼありません。充電式は数十日ごとにケーブルを挿す必要があり、忘れると作業中に切れます。予備の電池を1本引き出しに入れておけば、乾電池式のほうが運用は楽です。

弱点は本体がわずかに重くなることと、残量が突然尽きる可能性があることです。ただしトラックボールは本体を持ち上げも動かしもしないので、重さが操作感に影響しません。同じ重量増でも、通常のマウスとは意味がまったく違います。むしろ本体が軽いと、ボールを強く弾いたときに筐体ごとずれるほうが問題になります。

残量が突然尽きる件も、乾電池なら予備を1本引き出しに入れておくだけで解決します。充電式で切れた場合は、ケーブルを挿しながら使うか充電が乗るまで待つことになるので、復帰までの時間はむしろ乾電池のほうが短いという見方もできます。

結局、誰が買うべきか

  • トラックボールを初めて試す人 — 操作感は上位機とほぼ同じで、価格が2.5倍違います。まずここで相性を確かめるのが合理的です
  • 机が狭い人 — マウスパッド相当のスペースが丸ごと不要になります
  • 手首や肩の移動量を減らしたい人 — 本体を動かさないので反復動作の総量が減ります
  • 在宅勤務でクリック音が気になる人 — 静音クリック+滑走音ゼロで構造的に静かです

逆に、肘の外側が張る人(傾斜が必要)、横に広い表を扱う人(チルトホイールが必要)、精密操作と大きな移動を切り替える人(DPIボタンが必要)には上位機を勧めます。

そもそもトラックボール自体が向かない人

上位機との比較以前に、この形が合わない条件もあります。ここを先に確認してください。

  • 親指の付け根に既往がある人 — 負荷の集中先が親指になるので、悪化する側に働きます。大玉を手のひらで回すタイプか、そもそも別方式を検討してください
  • 1ピクセル単位の精密作業が仕事の中心にある人 — 慣れても通常のマウスとの差が残ります。併用でしのぐ前提にしたほうが安全です
  • 複数のPCを行き来しながら同じ操作感を求める人 — 出先のノートPCではタッチパッドに戻るため、手が二種類の操作を切り替え続けることになります
  • 今週が繁忙期の人 — 慣れに1〜2週間かかる道具を締め切り前に入れる理由はありません。落ち着いた時期に買ってください
  • 掃除を続ける気がない人 — 手入れ前提の道具です。2〜4週間に一度ボールを外すのが面倒だと感じるなら、渋くなった状態が常態化します

最後の一つは、この記事で最も伝えたい点です。M575SPが「最初の1台」として合理的なのは、価格が安いからだけではありません。 底面の穴からボールを押し出せて、支持球を1分で拭ける。この手入れのしやすさが、トラックボールを続けられるかどうかを決めています。上位機との差である傾斜・横スクロール・DPIは、続いた先で必要になったときに考えれば足ります。

よくある質問

MX ERGO S との違いは何ですか?
差は3つです。傾斜角の調整、チルトホイール(横スクロール)、DPI変更ボタン。トラックボールとしての操作感そのものはほぼ同じで、静音クリックも両方に載っています。価格は2.5倍ほど違うので、この3つが要るかどうかで判断してください。とくに傾斜角は前腕のねじれに効くので、肘の外側が張る人にとっては価格差を正当化する要素になります。
トラックボールは初めてですが使えますか?
普通に作業できるまで1〜2週間、意識しなくなるまで1か月程度が目安です。親指操作タイプは持ち方が通常のマウスに近いので、トラックボールの中では移行が最も楽な部類です。ただし最初の数日は確実に作業速度が落ちます。細かいドラッグは慣れても通常のマウスより時間がかかるので、締め切り前の導入は避けてください。
ボールの手入れは必要ですか?
必要です。2〜4週間に一度、ボールを外して支持球と受け皿を拭いてください。手の脂が溜まるとカーソルが引っかかる感触になり、これを故障と勘違いする人がいます。作業は1分ほどで、乾いた布で拭くだけです。逆に手入れさえすれば、マウスソールのような消耗要素がないぶん長持ちします。
静音クリックはどれくらい静かですか?
従来モデル比で約80%のノイズカットとされています。オンライン会議中にクリックしても気にならないレベルです。ただし静音マウス全般に言えることですが、消えているのはクリック音だけで、ホイールのラチェット音は残ります。もっともトラックボールは本体を動かさないので、机を擦る滑走音がそもそも発生しません。音源が構造的に1つ少ないぶん有利です。
ボールの転がりが渋くなりました。買い替えですか?
ほとんどの場合は買い替えではなく掃除で戻ります。ボールを支えている3点の支持球に皮脂と埃が溜まると、転がりが渋くなったりカーソルが引っかかったりします。これは故障ではなく汚れです。M575SPは本体底面の穴からボールを指で押し出せるので、支持球を乾いた布か綿棒で拭き、受け皿の埃を落としてから戻してください。それでも改善しない場合に初めて、支持球の摩耗や本体側の不具合を疑う順序になります。
通常のマウスと併用してもいいですか?
併用は合理的です。トラックボールは本体を動かさないので、机の上にマウス1台ぶんの余地が残ります。普段はトラックボールで作業し、画像の細かい選択範囲や図面の微調整といった精密なドラッグのときだけ通常のマウスに持ち替える、という使い分けができます。トラックボールに慣れる期間の保険にもなるので、いま使っているマウスをすぐ手放さないことをおすすめします。
手首の痛みに効きますか?
原因によります。手首や肩の「移動量」が原因なら効きます。本体を動かさないので反復動作の総量が減るためです。一方、前腕のねじれ(手のひらを下に向ける姿勢)が原因の場合、M575SPは傾斜角を変えられないので改善しません。その場合は傾斜のつく上位機か縦型マウスが必要です。すでに痛みが出ているなら、まず整形外科などで診てもらってください。

この記事を書いた人

midori

PC周辺機器の仕様と売れ筋データを読み比べて、用途別の選び方に落とし込んでいます。実機を入手した製品は、記事にその旨を明記しています。

  • メーカー公表値と売れ筋データを突き合わせて比較
  • 欠点を長所と同じ密度で書く

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