60%キーボードの使い方とキーバインド設計
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結論から書きます。60%キーボードが続くかどうかは、Fnレイヤーを自分の作業に合わせて設計できるかで決まります。 製品の良し悪しではありません。
そして先に正直なことを書くと、矢印キーを毎日使う仕事なら65%のほうが合理的です。この記事は「それでも60%を使いたい」あるいは「もう買ってしまった」人に向けて、実用的な運用方法を書きます。
60%で何が消えるのか
物理的に無くなるのは次のキーです。
- 矢印キー — いちばん影響が大きい
- ファンクション行(F1〜F12) — Escも兼用になることが多い
- Delete — Backspaceは残るがDeleteは消える
- Home / End / PageUp / PageDown — 文書やコードの移動で効いてくる
- テンキー — 数値入力が多い人には致命的
これらはすべてFnキーとの同時押しで代替します。つまり消えたのではなく、押し方が2ステップになったということです。
レイヤーという考え方
60%運用の中心にあるのがレイヤーです。
考え方は Shift と同じです。Shiftを押している間だけ、すべてのキーが大文字や記号に化けます。これを自分で定義できるようにしたものがレイヤーだと思ってください。
たとえば「Fnを押している間だけ、HJKLが矢印になる」と設定すれば、指をホームポジションから動かさずに矢印が使えます。 物理的に減ったキーを、押している間だけ別の意味に化けさせて取り戻すわけです。
ここで重要なのは、**60%は「キーが減った」のではなく「キーが重なった」**という理解です。この発想に切り替わると、運用の設計がしやすくなります。
実用的なキーバインド設計
順番に決めていきます。いきなり全部を作り込もうとすると挫折するので、この3段階を1つずつやってください。
段階1:矢印キーをホームポジション付近に置く
最優先です。よく使われるのは2パターン。
HJKL(Vim配列) — 右手ホームポジションそのままの位置で左下上右になります。Vimを使うなら迷わずこれです。Vimを使わない人には最初ピンときませんが、指が一切動かないという一点で最も効率的です。
IJKL(十字配列) — 十字キーの形をそのまま指に当てはめる配置です。視覚的に分かりやすく、Vimを使わない人はこちらのほうが習得が速いです。ホームポジションから右に1つずれます。
どちらを選んでもいいですが、決めたら変えないでください。 途中で切り替えると両方が身につきません。
段階2:Delete と Home / End を同じレイヤーに置く
矢印に慣れたら次はここです。文章を書く人ほど効いてきます。
私が使っている配置は、矢印をIJKLに置いた場合、その周囲にHome / End / PageUp / PageDown をまとめるというものです。移動系の機能を1か所に固めると、指が場所を覚えやすくなります。
Deleteは Fn + Backspace が自然です。物理的な位置関係が直感に合います。
段階3:レイヤーキーの位置を見直す
ここまで来ると、Fnキー自体が押しにくいことに気づきます。多くの60%キーボードでFnは右下にあり、小指を伸ばす必要があるからです。
対策は2つ。
親指をレイヤーキーにする — 右Altや変換キーをレイヤーキーに変更します。親指はいちばん余っている指なので、ここを使えるようにすると押せる組み合わせが一気に増えます。
CapsLockを活用する — CapsLockはほぼ使わないキーなので、ControlやレイヤーキーにするとAの左隣という一等地が活きます。HHKBが最初からControlにしているのはこの思想です。詳しくはHHKB Professional HYBRID Type-Sを1年使ったレビューに書きました。
キーボード側だけで解決しようとしない
レイヤー設計と並行して、OS側とアプリ側でも吸収できます。むしろこちらのほうが効果が大きいこともあります。
エディタのキーバインド — VS Code、Vim、Emacs、いずれもカーソル移動をホームポジション付近に割り当てられます。1日の大半をエディタで過ごすなら、ここを整えるのが最短です。
OS標準のキーバインド — macOSはテキスト入力欄で Control + A / E / F / B / N / P といったEmacs系のカーソル移動が標準で効きます。これはブラウザのフォームでも動くので、60%運用と非常に相性が良いです。知らずに使っていない人が多い機能です。
常駐ツール — Windowsなら PowerToys のキーリマップ、macOSなら Karabiner-Elements。自分のPCに限れば、キーボードの機能を超えた設定ができます。ただし前述のとおり、会社PCでは使えないことがあります。
慣れるまでに実際どうなるか
正直に書きます。最初の3日間は明らかに生産性が落ちます。
いちばん多いのは、矢印キーとDeleteを押そうとして空振りすることです。そのたびに思考が途切れます。文章の推敲やコードの修正のように、カーソル移動が頻繁な作業ほどストレスが大きくなります。
実用上のストレスが消えるまで2週間ほど、完全に無意識になるまで1か月ほどをみておくといいと思います。
この移行期間を確保できるタイミングで始めてください。 締め切り直前の導入は避けるべきです。
もうひとつ想定外だったのは、他人のPCで手が止まるようになることです。60%に最適化するほど、一般的な配列のキーボードで指が迷います。適応は可搬性のない技能だと理解しておいてください。
60%が向かない場面
こちらも正直に書きます。次に当てはまるなら、無理に60%を使う必要はありません。
表計算を毎日触る — セル移動で矢印キーを大量に使います。Fn同時押しが数百回発生する作業は現実的ではありません。
業務システムやブラウザのフォームが中心 — 前述のとおり、キーバインドを自分で変えられない場所ではレイヤー設計が効きません。
共用PCや貸与ノートを頻繁に使う — キーボードを持ち歩けないなら、60%に適応するほど日常の作業が遅くなります。
数値入力が多い — テンキーがないので、別途テンキーパッドを用意することになり、省スペースの利点が消えます。
65%という現実的な折衷案
上のどれかに当てはまるなら、65%レイアウトを検討してください。
65%は60%とほぼ同じ設置面積のまま、右端に独立した矢印キーが残ります。 学習コストはほぼゼロで、省スペース化の効果だけ得られます。
KeychronKeychron K6(65%レイアウト)
実利だけで考えれば、多くの人にとって65%のほうが合理的です。60%を選ぶ理由は、キー配置の完成度と、ホームポジションから一切動かない運用へのこだわりにあります。
その思想を最も徹底しているのがHHKBです。
PFUHHKB Professional HYBRID Type-S
どちらが自分に合うかは、サイズ以外の要素も含めて比べたほうが判断しやすいです。配列と接続方式まで含めた比較はメカニカルキーボードを4軸で順位付けした記事にまとめました。
まとめ
60%運用の要点は次のとおりです。
- 「キーが減った」ではなく「キーが重なった」と理解する — レイヤーの発想に切り替える
- 矢印をホームポジション付近に置く — HJKLかIJKL、決めたら変えない
- 移動系(Home/End/PageUp/Down/Delete)を1か所にまとめる
- レイヤーキーを親指かCapsLockに移す — 右下のFnは押しにくい
- OS側とエディタ側でも吸収する — キーボードだけで解決しようとしない
- 設定はキーボード本体に保存できる機種を選ぶ — 会社PCで効くかどうかの分かれ目
そして2週間の移行期間を見込んでから始めてください。 ここを確保せずに導入すると、合う合わない以前に元のキーボードへ戻ることになります。